先日Choro Azulのツアーで熊本へ行った時のライブ会場はDENKIKANという映画館でした。ここは3つの映画館からなるちょっとしたシネマコンプレックス。その日僕らのライブ中の時間帯はほかのフロアは閉まっていて、翌日から上映する映画のフィルムチェック(フィルムに傷がないかとか、音はちゃんと出るかをチェックするために誰もいない映画館で最初から最後まで本番どおりに上映する)をしていました。
映画館なので特に楽屋などもないため、チェック中の誰もいない真っ暗な映画館は使っていいと言われていて、ずっとそこにいたところかかっていた映画があまりにも素晴らしくて、ライブが終わった後誰もいない映画館で最後まで見続けてしまいました。
そのフィルムチェックにかかっていた映画とは、ロッテ・ライニガーという影絵アニメーション作家の「アクメッド王子の冒険」。1926年に作られた世界初の長編アニメーション映画で、今やっているのは35ミリ修復&サウンド版のニュープリント。
たまたまそこでかかっていたのを一瞬見ただけで、まずその色彩の美しさにやられ引き込まれてしまったのですが、効果音もなく、アニメーションといっても影絵なので人物の表情などもなく、モノトーンの映像と音楽が流れているだけという世界なのにものすごくドラマティックで長い物語を見ていてもまったく飽きる事なく目を奪われっぱなし。
繊細に切り抜いて作られたレース細工のような風景や人物。衣装の細部にいたるまで本当によくできてて目を見張ります。しかもバックにつけられた青や黄色、赤といったバックのカラーと影絵の黒のグラデーションのみでありながらひとカットごとの構図がすべて計算されていて美しい...。ため息ものです。
今回つけられている音楽は制作当時に作曲されたスコアをもとに新録されたものだそうです。おそらく最初に公開された当時は、サイレント映画なのでスコアをもとに実際に楽団が音楽をつけていたんだと思います。今からすればなんと贅沢な....。効果音はなくともスコアが完全に物語とシンクしているから映画の世界に思いっきり入り込む事ができる。楽団がいるということは音は完全サラウンドで響いていた(というかライブだから)はずですから、それはすごい体験だったと思います。
これは出来る限り映画館で見た方がいい映画です。楽団入りで、、というのはさすがに無理だとしても家のモニターで見るのはもったいない。映画自体が影絵なので、発光体であるモニターではなく、影を映す映写機で見なければ本当の美しさは再現出来ないはずです。
本質的には全ての映画は影を見るメディアなので、フィルム体験というのは映写機でなければ体験したことにはならないと思うのですが、この映画は久しぶりにそのことを思い出させてくれました。この作品は映画館の暗闇で映画を見るということが本当に特別な娯楽だった時代の貴重な遺産です。しかし偶然とはいえ300人くらい入る映画館を貸し切り状態で見た訳ですから、これもそうとう贅沢な体験でしたが。
遺産といえば、昨日UNITでやっていた「美人寿司の夜」というイベントで巨大な蓄音機を2台使ってのDJ(?)パフォーマンスがあったのですが、そばでレコードをかけるのを見ていると一曲ごとにハンドルを回してネジを巻き、針を交換している。しかもその針が超太い。「すごい太さですね」と聞くと、本当に初期の蓄音機というのは電気を使っている訳ではないのでボリュームの調節は針の太さで決めるとのこと。さらにそんな太い針で引っ掻くから一曲ごとにレコードはすり減って行き最後には聞けなくなる。文字通りレコードがすり切れて、今聞いている音はもう2度と聞くことはないのだそうです。
現在のハイファイ・オーディオからすると考えられない音質と面倒臭さですが、デジタル・オーディオなどには完全に失われてしまった世界が確かにあります。レコードを聴くという行為自体にもかつては意味があった、、ということを再認識する体験でした。
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