あのワープレコードがダウンロード販売を始めるというニュースはちょっと前にあちこちで話題になったが、それに続きスミソニアン・フォークウェイズがインターネットを通じてのダウンロード販売を始めるらしいというニュースを聞いた。一曲単位で試聴しながら購入でき、値段は一曲99セント。アップルのiTunes Music Storeと同じ値段。フォークウェイズは自前のカタログを廃盤にしない方針を貫いているらしく、注文があると昔はカセットで、今はCD-Rに焼いてアルバム単位ではあるが、一枚から送ってくれるという親切なところだ。(クラン・コラ・ブログ / 2004/02/8)それだけ自分たちのカタログにアーカイブ的価値を見いだしているということだと思う。それはワープもおそらく同じだ。(OTO-NETA / January 15, 2004)
僕は一概にレコード会社に対して文句ばっかり言うつもりもないけれども、友人のバンドなどが契約が切れたり、レーベルが消滅した瞬間に廃盤になってしまったりというケースを何度か目撃しているので、それを考えるとワープやフォークウェイズの姿勢には自分たちがリリースしてきたものに対する自信と愛情を感じる。やっていることは似てるけど、アップルのミュージックストアとはまた違ったベクトルを持った話じゃないだろうか。フォークウェイズの場合、現在は所謂レコード会社というのとはちょっと違うということを差し引いたとしても。
「大体日本人は・・・」で始まる紋切り型は嫌なんだけど、随分前から、日本の無声映画などのフィルムは大量に処分されてしまったり(昔のフィルムはとても燃えやすかったので、消防法とかの関係でアーカイブできないことになってるらしい)それをフランスの文化省が抗議して全部買い取ろうとしたことがあった、とか言う話も聞いてるし、日本人ってやっぱり新しい物好きで、ちょっと古くなったものにはあまり関心を示さないという性癖はあるような気がする。
レコード会社ももちろん企業だから、売れもしないレコードをやたらとストックしちゃったらそもそも経営自体が成り立たないって事情もあるだろうし、話はそんなに簡単じゃないってことぐらいはわかる。でもデジタルコピーの弊害ばっかり言うんじゃなくて、フォークウェイズがこれまでもやってきたように、過去の作品は注文があれば受注生産でもリリースしたりっていうことは、アナログの時代よりも簡単にできるはずで、それは本当にリスナーの視点にたった姿勢なんじゃないかなと思う。そもそも同質のものを低コストで生産できて、扱いも簡単なのでユーザー層を拡大できる、という理由で音楽をデジタル化したのはメーカー側の事情でもあるわけだから、同じ理由で今度は規制しようという論理にはどうしても矛盾がある。パンドラの箱を開けちゃったのは僕らじゃないし、アップルやワープが開けたんでもない。
他のアートフォームと音楽がすこし違うところは、同じ瞬間に多くの人が一つの作品を共有できるということだと思うので、現在のCCCDとか著作権問題とかはそこを無視した議論だという気がしてしまう。CCCDの問題は本質的には音質とか、機材の問題じゃない。録音芸術ってのは複製を前提としているわけだし。映像だってもうちょっと技術が進んでいろんなコストが下がれば、すぐに今のCDと同じ問題が出てくるはずだ。
みんなやってたことだけど、僕も音楽を聴き始めた小学生の頃から、FMラジオにかじりついてエアチェックしてテープを作ったり、それをウォークマンで聴いたりってのをやってたので、最近のインターネットの状況っていうのは、その頃を思い出すような感じがある。自分でも使っていて実感しているが、アップルのiPodやiTunesは使っている技術こそ新しいものの、少し便利だというだけでスタイルとしては別に新しいわけではない。だからこそ大ヒットしているんだろう。
大方の音楽の作り手側の人間は、最もよく音楽を聴いている人種でもあるわけで、テクノロジーが進歩したことで流通だの販売だのっていう、「作る→聴く」以外のごちゃごちゃしたしがらみから解放されるもう一つの選択肢が見えてきたことは作り手、聴き手両者にとっていいニュースじゃないだろうか。野菜じゃないけど、産地直送というスタイルが音楽でもできるようになるかもしれない。そもそも最も原始的な音楽のあり方、ライブってそういうことだと思うし、いちリスナーとしては好きなアーティストは余計なフィルターなしに接したいなと言う思いもある。
スリーブのデザインを含めモノには人一倍愛着を持つほうなので、パッケージが無くなるとは思わないし、無くなってほしくもないけど、音楽配信の流れはもう止められないと思う。インターネットは本当に国境をこえつつある。テクノロジーとネットワークが進歩したことで、状況はかえって先祖帰りしている。一方で音楽をとりまく構造は変わらない。違法コピーの問題はもちろん考えなければいけないけど、今の対応の仕方がまとはずれであることは間違いない。後5年もすれば「あーあの時はCCCDなんてものがあったなー」って言われることになると思う。その時にそういうのが残ってて恥ずかしい思いしたくないじゃないですか。まあ僕らみたいな活動をしてる人たちは、CCCDにしてまで守られなきゃいけないほど恩恵を受けてないから、勝手なことを言えるってのもあるんだけど。
だいたい大昔は専業ミュージシャンなんていなかったわけだし、作り手と受け手が同じ立場で、小さなコミュニティでもいいから好きな音楽を楽しみ続けるっていう生き方があってもいいんじゃないかと思います。
フォークウェイズのニュースを見てちょっと考えたことでした。
このニュースを教えてくれたhidemuzicくんありがとう。
Recent Comments